2018-04-02

臆病さは弱みのように語られるが実は大きな利点である理由


理想主義者は理想に向かって果敢に目標に挑戦し、冒険心を持って何かを追求するという明るいイメージがある。一方で現実主義者は身の程をわきまえて無理だと思ったら何にも挑戦せず、臆病な人間であるという暗いイメージがある。

現実主義者の弱みとしてしばしば挙げられる「臆病だ」という姿勢は、実はデメリットどころか逆に大いなるメリットであることに気付かないのであれば問題だ。

「臆病であること」は生き残るための必須条件である。

稀代の左官職人として知られている挟土秀平(さはど・しゅうへい)氏は、「臆病であれ」という言葉を信条としていることを自らの言葉で語っている。

『何度も材料を作り直し、試す。自分自身に問いかけるように「大丈夫か」とぼやく。その裏には、自信過剰になれば必ず落とし穴に落ちる、という強い思いがある。常に不安を抱えることで、感覚が研ぎ澄まされ、良い仕事ができる』

すべてのプロフェッショナルは、この「臆病さ」を持ち合わせていることで共通している。

なぜなら、そうでないと細部に神経が行き届かず、見逃しが発生し、場合によっては自分自身が危機に陥ることもあるからだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

臆病さがなかったために自滅するのが世の中の常だ


たとえば、一瞬の気の緩みが死に直面する職業というのは珍しいものではない。

挟土秀平氏の職業である左官にしても現場は高い場所であったりすることもあるわけで、安全確認を怠ると転落して大事故につながりかねない。

軍人も自らの体調管理、所持品の確認、自制心、規律、警戒心を怠ると、一瞬で殺されてしまう職業でもある。臆病であるというのは生き残るための必須条件だった。

すべての「乗り物」のドライバーもまた同じだ。スピードに対して根拠のない自信を持ち、安全確認を怠り、マシンのメンテナンスも自分自身の体調管理もしないでいると、破滅的な大事故を引き起こすことになる。

スピードは、一瞬の気の緩みで死に直結するのは、毎年交通事故で数千人が死んでいるのを見ても分かる。臆病でなければ自分が大怪我をしたり死んだりするだけでなく、まったく関係ない人を巻き込みその人の人生を破壊してしまう。

危険な職業と言えば、ボクシングや格闘技やプロレスのような「職業」もまた同じだ。いや、ほとんどのアスリートは自分の身体を極限まで酷使するわけで、危険度は同じである。

極限の中で生き残るためには、あらゆる面に関して臆病なまでに準備し、防御し、注意しておく必要がある。根拠のない自信や無謀さや冒険心や無鉄砲さは自らの肉体の破壊につながり、競技人生の終わりにつながる。

死につながらないとしても、臆病さがなかったために自滅するというのはあらゆる職業に言えることだ。

経営者の破滅、事業の破綻というのは、往々にして巨額の借入が原因で発生する。この無謀な借入というのは、根拠なき楽観主義や冒険主義から生まれる。理想や未来の成功の姿に酔って現実が見えなくなる。

巨額の借入はビジネスを加速させるものであり、絶対的な悪ではないのは確かだ。しかし、場合によってはビジネスを一瞬にして破壊してしまうものでもある。

取り扱いは慎重の上に慎重を期する必要がある。臆病さを忘れて猪突猛進すると、事業が失敗した瞬間に会社も従業員の人生も一緒に吹き飛んでいく。

真っ先に死ぬのは誰か。臆病さを忘れた人だ


投資家もまた同じだ。バブルが発生すれば多くの投資家は強いユーフォリア(幸福感)に包まれる。あちこちで「朝起きたら資産が増えている」「一攫千金だ」という噂が流れ、おいしい思いをした人が名乗りを上げていく。

どこかのアナリストも「これは2倍になる、いや3倍になるかもしれない」と興奮したように言い出し始め、テレビや雑誌が「バスに乗り遅れるな」と騒ぎ出す。

バブルの興奮状態は伝染性があるのだ。

だから投資家の多くは「このバブルはもっと続く、どこまでも続く」と叫びながらどんどん資金を投入し、それでも飽き足らずに巨額のレバレッジを賭けて一発勝負に出たりする。

臆病さを忘れて一攫千金に走る。しかし、バブルというのは常に根拠なき熱狂なので、いつ破裂するのか分からないのだが、どこかで破裂してしまうものだ。

そこで真っ先に死ぬのは誰か。臆病さを忘れた人だ。全財産をバブルに突っ込んでいた人や、過大な信用やレバレッジをかけて資金を投じていた人が死ぬことになるのだ。

バブルを見て「これはバブルだ。いつか破裂する」と分析して踊らない人は現実主義者であると言える。

人々が狂気にとらわれて踊っているときに踊らないでいると「時代に乗れない人」「臆病な人」「駄目な人」「分かってない人」のように言われるのだが、バブルが破裂したら無傷で生き残るのが現実主義者なのである。

昨今の仮想通貨市場では1年で10倍になるような法外な暴騰と、一気にそこから60%以上もの暴落を見せていた。

大勢の投資家が踊り狂うそんな中で、ウォーレン・バフェットや、ハワード・マークスのような熟練した投資家はまったく踊らずに距離を置いて見ていた。

また、JPモルガン・チェースの最高経営責任者ジェイミー・ダイモン氏も「ビットコインは本物ではない。いつか終わる」と発言して、「もし自分の会社でトレーダーが暗号通貨を取引しているとしたらすぐに解雇する」と言っていた。

「ジェイミー・ダイモンは時代遅れで何も分かっていない」と仮想通貨市場で踊っている人々はJPモルガン・チェースの最高経営責任者を酷評した。

しかし、このジェイミー・ダイモン氏の姿勢で、JPモルガン・チェースは仮想通貨でまったく傷を負わなかった。バブルに対して臆病であることで助かったと言える。そこで勝負すべきではないと理解していたのだ。

現実主義者であることはまったく悪いことではない


臆病さがなかったために自滅するのが世の中の常であることを考えると、「臆病だ」という姿勢は、実は弱みどころか逆に大いなる利点であると分かるはずだ。

そう考えると「自信を現場に持ち込むな。臆病であれ」という姿勢は生き残るために正しい姿勢であることが分かる。現実主義者は臆病であることで生き残るのである。

では、現実主義者は果敢に目標に挑戦し、冒険心を持って何かを追求することはないのかと言えば、まったくそうではない。現実主義者も様々な目標に挑戦する。

ただ目標は厳しく精査され、さらにその挑戦には常に「自信を現場に持ち込むな。臆病であれ」という姿勢がセットになっていて、同じ挑戦をするにも自分が死んで破滅するようなことはないということだ。

現実主義者の「目標への挑戦」は、細心の注意と慎重さで行われる。つまり、臆病なまでに細部に目を行き渡らせて挑戦する。それは悪いことなのだろうか。いや、悪いどころか大切なことでもある。

細心の注意を持って行われるので、逆に限界能力や限界値がよく見えていて、そこまでは豪胆に突き進むことも可能になる。計算された中で豪胆に振る舞える。

普通の車が一般道で150キロも出したら確実に事故を起こす。しかし、整備されたマシンとコースでF1レーサーがスピードを出すと、300キロを超えることも可能だ。

300キロは尋常ではないスピードだが、限界能力や限界値が分かっていて、「臆病」なまでに準備と整備が為されるとそれは可能になる。

そう考えると、現実主義者であることはまったく悪いことではなく、むしろ無駄死にしないための最も重要な要素のひとつであると言える。

現実主義の評価は不当なまでに低く、明るい理想主義と対比されてイメージも良くない。しかし、現実主義のメリットはもっと強調されて然るべきだ。

さらに、臆病であることは生き残るための重要な要素であることも強調されていい。臆病さは弱みのように語られるが、ある局面では大きな利点なのである。(written by 鈴木傾城)

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臆病の代表としてよく言われるのが野ウサギだ。この野ウサギは臆病であることで生き残り、繁殖できている。臆病さは弱みのように語られるが、ある局面では大きな利点なのである。


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